薬歴

【S記載のコツ】“患者の言葉”をどう記録する?聞き取りから要約の技術

umaingen

S欄の質は、薬歴全体の精度に直結します。
だからこそ、なんとなくの記載で済ませず、“情報の引き出し方”から見直すことが大切です。

この記事では、よくあるNG例、記載の工夫、聴き取りのコツ、記録例を通して、S記載スキルの底上げをサポートします。

前の記事を読んでない方はこちらから
【SOAP記載の徹底解説】薬剤師の思考を記録する4ステップ

S記載とは?その役割と重要性

S欄は、患者さんが「感じたこと」や「話してくれたこと」を記録する場所です。

言ってみれば、薬歴のスタートライン

ここがあいまいだと、あとから薬歴を見返したときに
「この人、どんな様子だったっけ?」と分かりづらくなってしまいます。

「そのまま書けばOK」はNG

ありがちなのが、
「患者さんの言葉をそのまま書けば十分」と思ってしまうパターンです。

でも実際は、言葉の裏にある背景や気持ち
少しだけ深掘りして記録することが、より質の高いS記載につながります。

たとえば、こんな場面

患者さん:「最近、頭が痛くて…」

この一言だけで終わらせるのではなく、

  • いつから?
  • どんな痛み?
  • 生活にどんな影響が出ている?

と、少し踏み込んで話を聞いてみましょう。

それによって、薬の副作用か? 他の病気か?
といった判断材料が得られる可能性があります。

S欄は「聴く力」×「気づく力」

良いS記載とは、「聴いたこと」+「背景に気づいたこと」のセットです。

ここをしっかり書けると、
その後の O(客観)・A(評価)・P(指導) も書きやすくなります。

まずは、“ただ聞いたこと”ではなく、
“気になったこと・背景まで”をS欄に記録
するイメージを持ってみましょう。

よくあるNG例とその理由

S記載が「うまく書けない」と感じること、意外と多くありませんか?

その原因のひとつは、無意識にやってしまっている“NG記載パターン”に気づいていないことです。

ここでは、現場でありがちなS欄のNG記載を3つ紹介します。

それぞれ「何が惜しいのか?」「どう改善できるか?」を一緒に見ていきましょう。

⚠️ よくあるNG例3選

  • NG①:「特になし」「体調変わらず」で終わっている
  • NG②:患者の言葉をそのままメモするだけ
  • NG③:「なんとなく聞くだけ」で情報が拾えていない

NG①:「特になし」「体調変わらず」で終わっている

長期服用中の患者さんに体調確認したとき、

「いつも通りです」「特に変わりないです」
と言われること多いですよね。

でも、そのままS欄に書いて終わってしまうのは非常にもったいないです。

患者さん自身が変化に気づいていなくても、
実際には副作用や病状の変化が隠れていることがあります。

▼ こんな質問を添えてみましょう:

  • 「肩こりが前より強くなっていませんか?」
  • 「最近、咳が出やすくなったと感じることは?」

「変わらない」の中にある“違和感”を拾い上げることがポイントです。
 それが、質の高いS記載への第一歩です。

NG②:患者の言葉をそのままメモするだけ

「主訴をそのまま書くことが大切」と教わった人も多いでしょう。

でも、聞いた言葉だけを書くだけでは“記録の意味”が薄れてしまうこともあります。

▼ よくある記載パターン

パターン①:問診の受け売り

  • 「先生が大丈夫って言ってたんで」
  • 変わりないって言ってたので問題ないと思います」

パターン②:患者の一方的な意見

  • 「薬は家族が管理してるから分からない」
  • 「医者に聞いたからもういいでしょ」

確かに、このような発言をする患者さんがいるのは事実です。

しかしこれだけでは、薬剤師がどう関わったか、何に気づいたか
まったく見えてきません。

薬歴は「薬剤師が考えて記録として残す」ことができる公的な文章です。

患者の発言をベースにしながらも、
背景や補足、気づいたことを書き加えることで、記録の価値がグッと上がります。

NG③:「なんとなく聞くだけ」で情報が拾えない

声かけをする際、「とりあえず体調を聞く」だけになっていませんか?

そのまま雑談のように終わってしまい、
S欄に書ける内容がほとんどないという事態に。

実はこれ、「今日この患者さんに何を知りたいのか?」
が明確になっていないことが原因です。

▼ たとえば:

処方変更があった患者に対して、

「最近どうですか?」だけだと「まあまあです」で終わりがち。

そこで一歩踏み込んで、「眠気やふらつきは感じませんでしたか?」など、“目的を持った質問”をすることで記録に残せる情報が自然と出てきます。

S記載は、「聴いたことを書くだけ」ではなく、
「どんな情報を引き出すか」を意識することから始まっています

S記載が上手くなる3つのコツ

① OPQRSTを意識する

問診技法のひとつに、「OPQRST」という考え方があります。

これは医師が症状を聴く際に使うフレームで、以下の6項目で構成されています:

  • O(Onset): いつから症状が出たか
  • P(Provocation/Palliation): 何で悪化・軽快するか
  • Q(Quality): どんな性状か(ズキズキ・ズーンなど)
  • R(Region): どこに症状があるか/どこへ広がるか
  • S(Severity): 症状の強さ(程度)
  • T(Time course): 経過・変化の仕方

これらを意識して患者さんに聴き取りをするだけで、
漠然とした訴えが、明確で記録しやすい情報へと整理されていきます。

▼ たとえば:

患者:「最近、頭が痛くて…」

薬剤師:

  • 「いつからですか?」(O)
  • 「どんな痛みですか?」(Q)
  • 「何かすると悪化しますか?」(P)

OPQRSTに沿った質問をすることで、S欄に記録する内容にも芯が通ります。

ぜひ、明日から活用してみてください。

② 生活・家族・心理の背景まで意識する

服薬指導は、薬の説明をするだけでは不十分です

指導時にはその人全体(生活・家族・心理状況)を理解する視点が求められます。

▼ たとえば:

  • 「夜中にトイレが近い」
     → 独居高齢者で転倒リスクに不安
  • 「飲み忘れが多い」
      → 介護疲れで生活リズムが乱れていた
  • 「薬が怖い」
      → 家族にがん患者がいて薬への不信感がある

このような背景は、何気ない会話の中から自然に引き出せることが多いです。

単に「症状を聞く」のではなく、
「なぜそう感じているのか?」
「生活にどんな影響があるのか?」
という視点で聴くことで、より深いS記載が可能になります。

③ オープン質問→クローズド質問の順番を意識する

S情報を上手く引き出せないとき、「質問の順番」が鍵になります。

ここで役立つのが、オープン質問とクローズド質問の使い分けです。

オープン質問: 自由に話してもらう質問(例:「体調どうですか?」)

クローズド質問: 「はい/いいえ」で答える質問(例:「眠気はありますか?」)

おすすめの流れ:

  1. まずオープン質問で幅広く情報を引き出す
  2. その後、クローズド質問で絞り込み・確認

▼ 実例:

  • 薬剤師:「ここ最近の体調はどうですか?」(オープン)
  • 患者:「まあまあですかね…ちょっと疲れやすくて」
  • 薬剤師:「ふらつきや眠気は出ていませんか?」(クローズド)

このように会話の流れを意識すると、
記録に残すべきS情報が自然と明確になります。

「どう聞くか」が「どう記録できるか」を決めます。
質問の順番を意識するだけで、S欄の深みが大きく変わってきますので是非活用ください。

記載例(ビフォー/アフター)

ここまでS記載のポイントを学んできました。

では実際に、「頭痛」をテーマにした記載例を見ながら、どこが惜しいのか・どう改善できるのかを一緒に確認していきましょう。

❌️悪い例:「特になし」「頭痛あり」などの記載

S:頭痛はあるけども、普段通りで特に変わったことはない。

▼ なぜ悪いのか?

  • 「普段どおりだけ」では簡潔すぎて情報が曖昧
  • 「頭痛」がどんな痛みか不明
  • 頻度・性状・経過などが抜けている(=OPQRSTが活かされていない)

このような記載では、あとから見返しても患者の状況が分からず、O(客観)・A(評価)・P(指導)にもつなげにくいです。

⭕️ 良い例:具体的+背景・理由も含まれる記載

S:頭痛は週に3回程度。前頭部を中心にズキズキする痛み。
特にパソコン作業中や勤務後に悪化する傾向がある。
市販の鎮痛剤を服用すると30分ほどで軽快する。
痛みによるストレスや睡眠不足もあり、不安を感じている様子。

▼ なぜ良いのか?

  • OPQRSTに沿って症状が具体的に描写されている
  • 生活背景(PC作業・勤務後)が明記されている
  • 「不安」「ストレス」といった心理的要素も含まれている

このように記載できると、次のO・A・P記載への展開が非常にスムーズになります。

薬剤師の質問力と観察力次第で、ここまで深い情報が引き出せるのです。

まとめ:S欄は“ただのメモ”ではなく“考える材料”

「何もなかった」と言われたとしても、
その“何もない”をどう聴き取るかで薬歴の価値は大きく変わります。

また「頭痛あり」と書くだけで終わらせず、
いつ・どこで・どんなふうに・なぜそう感じたかまで具体化する意識が重要です。

S記載は、患者の言葉を記録する場であると同時に、薬剤師としてどう考えるか、行動するかを導き出す材料でもあります。

日々のやりとりに、ほんのひとつ質問を加えるだけで、薬歴の深さと信頼性はグッと高まります。

背景まで汲み取る姿勢が、あなたの記録を“伝わる薬歴”へと変えていきます。
まずは、ひとつの声かけから。明日の現場でぜひ試してみてください。

記事を書いた人
おはな
おはな
現場の“モヤっと”を言語化する人
調剤薬局薬剤師。エリア担当として各店を担当しながら現場の”できない”を”できる”にしてきた工夫や経験を発信中。 薬剤師としてスキルアップしてもらえるよう、ひとつでも”使える視点”を届けられたら嬉しいです。
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